ブログ
[野方の家] 建築家×造園家 敷地全体で考える家づくり
私たちは、建物の設計を考える前にまず敷地に立ち、周囲との関係を意識しています。
どこまで気持ちが良い空間を広げられるかを想像し、その中で建物がどうあるべきかを考えていくので、家と外とのつながりは当たり前に存在する前提で考えています。
「雑木林の中に佇むような家で暮らしたい」
「野方の家」では建主が大切にされている感覚との親和性を当社に感じていただき、建物の設計とシンクロする形で庭の設計が進みました。
当社でも自ら庭をデザインをするケースもありますが、今回は造園家(ガーデンデザイナー)と協働したことで生まれた面白さをお伝えしたいと思います。
建物の配置 × 庭のデザイン
「野方の家」は、敷地に対して建物を斜めに(真南に)向くよう配置し、南壁の窓を大きく取っています。
これにより、冬の太陽高度が低い時期でもリビングまでしっかり日差しを取り入れる事ができると同時に、室内に居ながら緑や空への抜けを感じ、自然とつながる心地よさを得られることができます。
そしてこの建物の配置に対し、庭の骨格やディテールを決めていきます。
まず私の方で建物の輪郭、庭の動線・樹木を配置したラフイメージを描き、ガーデンデザイナー(エービーデザイン 正木覚 さん)によって庭のデザインに落とし込んでもらいます。
正木さんとは何度も協働をしていますが、提案を頂く度にその観察力、技術力、アイデア力に驚きと新鮮さを感じます。必然性の中で植栽のプランが作られ、建物だけでは成し得ない「室内外がつながる心地よい空間ができる!」いう確信とリアリティが生まれるのです。
・周辺の緑と一体になった安らげる家の顔をつくる
・以前からずっと在った風景のような佇まい
・街に開いた緑の入江のようなエントランス・・
建主や私の中に「これを実現させたい」というワクワク感が生まれ、それが原動力になり計画が進んでいきました。
木の畑で樹木を選ぶ
庭に植える樹木は、埼玉県寄居にある「中央園芸」さんの畑で、正木さん、建主自らが一緒に選定しました。私も同行。
どこに何の木を植えるのがよいか案出しをしながら畑を見ていきます。
「キッチンの窓から柿の木が見えたら最高だなあ。」
「ビワを植えたいんですよね」
「やっぱり実を食べれるって嬉しい。」
メインの高木はアオダモ。エゴ。ソヨゴ。
そして、柿やジューンベリー、ブルーベリー、キンカンなど、実のなる樹木も選ばれました。
今後、建物や子供と共に成長していく樹木が決まりました。
土中環境を整える
「野方の家」では、敷地の土中環境を整える事にチャレンジをしました。
”人や建物の快適・健康を大切に設計をしているなら、土の中や樹木も同じ関係であるのが自然ではないか。”
設計の経験を重ね、私自身、少しづつこの意識が高まっている中で、正木さんはさらに一歩踏み込み、同じ思いを持つ造園関係者と共に土中の環境づくりに取り組まれていました。
建主も設計者である私も、その取り組みに共感し「野方の家」で実践する事に。
土中環境を整えるとは、土中の健康づくりを意味します。
敷地を読み取り「空気」と「水」の流れを意識して土を掘り、枝や炭、枯葉を敷いていきます。
いずれ樹木がそこに自分の根を絡ませ、水・空気の通り道をつくり、自然に柔らかい土を作ってくれるのです。そうなると、地上の空気が風にのり、地中に潜りやすく、酸素や窒素などを供給する。自然が自然に循環していく、この道筋を作ります。
ご興味ある方はぜひ中央園芸さんのホームページ、「土中環境」(高田宏臣著)をご覧ください。
植樹の日
10月8日、植樹の日を迎えました。
中央園芸の庭師 濱田さん中心に、先日選定した樹木が運び込まれ、作業が始まります。
「今日は、敷地の表情や空気が一変する日です」
正木さんが工事の前に一言。
雨の中工事を決行し、骨格となる高木を植えていきました。
1本1本、その表情を見ながら樹木の場所・最適な向きを整えていきます。
ピタッと美しい向きになった時に、関係者全員が「おっ!ここだ!」となる瞬間があるのが面白い所。
植え終わると、屋久島地杉の外壁と植栽がお互いの魅力を引き立たせ、建物の表情・見え方が一気に変わりました。
さらに室内から庭を望むと、緑のレイヤが何層にも重なり、それが遠景につながり、豊かな奥行きが出来ています。
樹木によりプライバシーが守られ、落ち着きを感じながら感覚が広がる。
都心の中の、「雑木林の中に佇む家」。
エービーデザイン、中央園芸、当社。
ガーデンデザイナー、庭師(職人)、設計者。
それぞれの役割は異なりますが、建主の価値観を共有しながら予定調和を超えた協働により、建主が求める心地よい空間が出来あがってきました。
冨田 享祐