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[野方の家] 空気の綺麗な家 -換気と冷暖房計画
「野方の家」では、メーカーと当社が協力し、20年・30年先を見据えた独自の換気・冷暖房システムを設計しています。
住宅用の24時間換気システムは、次のように「第一種」もしくは「第三種」換気方式のどちらかが一般的ですが、「野方の家」では「第一種」換気方式を採用しています。
・一般的な住宅:「第三種」換気方式
-給気:自然に取り入れ
-排気:ファンで排出
・空調への意識が高い住宅:「第一種」換気方式
-給気:ファンで取り入れ
-排気:ファンで排出
※給気とは外の空気を室内に取り入れること、排気とは室内の空気を外に出すことを指します
「第一種」換気方式はどちらもファンを使うので初期導入費は高くなりますが、「野方の家」では、
・計画的な換気ルートを設計できる
・換気による熱損失を最小限に止め、室内に温度ムラをつくらない環境を実現できる
という理由から、
「第一種」換気方式の効果を”最大限に発揮させる”方向で設計を進めていきました。
全体像はこちら。このポイントを紹介します。
換気 その1 -外から取り込む空気を綺麗にする
大気には花粉、黄砂、PM2.5、車の排気粒子などの汚染物質が含まれます。しっかり対策を取らなければ、その多くが給気口から室内に流れ込んでしまいます。
[健康になれる家]がテーマでもある「野方の家」では、幹線道路も近いこともあり、トルネックス社の外気清浄機を採用し、給気口から取り込まれる外気の汚染物質を除去し、綺麗な空気だけを室内に取り入れる設計にしています。
換気 その2 -熱エネルギーを無駄にしない
外気清浄機を通した空気は綺麗になりますが、これだけでは空気が持つ「熱」は変わりません。
しっかり断熱・気密をしても、換気によって暑い・寒い外気を室内にそのまま取り込んでしまうと、冬に「室内は暖かいのに、綺麗な空気が吹き込む場所だけ冷たい」といった、温度ムラができてしまいます。
温度ムラは、快適性や冷え等に影響する他、ダクトなどの結露・カビの原因にもなるので、可能な限り防いで家の室温を均一に保つ事が大切です。
そこで「野方の家」では、外気清浄機で綺麗になった空気を、さらに協立エアテック社の全熱交換器を通して室内に送り込む仕組みで設計を進めました。
※この全熱交換器が第一種換気の給気用・排気用のファンの役割をします。
全熱交換器とは、
排気する空気が持つ「熱」を、給気した空気へ移してあげるという役割を持つシステム。
排気と給気の空気が混ざらないよう、特殊加工された仕切版(平らな紙)・間隔版(ハニカム状の紙やプラスチック)で交差して通過する際、排気の熱だけを奪い給気に移します。
換気による室内の熱損失を小さくする事ができ、省エネ効果も期待できます。
この熱回収率は70-80%。全熱交換器を通ることで、外気清浄機で綺麗になった空気は室温に近い状況まで熱を持つ事ができます。
その空気が室内を巡るので、室内は均一な温度に近く、結露・カビのリスクを最小限に抑える事ができます。
換気 その3 -換気ルートに麻炭を塗った階間空間・基礎空間を使う
給気した空気は、断熱・気密性能やメンテナンスを考慮し、階間空間(1階天井裏)・基礎空間(1階床下)に流すようにしています。このルートには麻炭を塗っています。
他ブログでもご紹介しましたが、麻炭には有用微生物が含まれており、
・マイナスイオン効果で臭いや静電気を抑える
・有害物質などを吸着する
といった効果があり、より人体に心地よい状態で室内に取り込む事ができるのです。
こういった設計の積み重ねにより、(何も対策しない場合と比べ)全く異なるレベルで快適で健康な暮らしができるようになります。
換気 その4 -システムのメンテナンスを容易にする
一般的な住宅は、各部屋に換気用ダクトを伸ばし、そこから排気・給気をしていくダクト式がほとんどです。
ダクト式は、閉じた部屋でも確実に換気ができるメリットがありますが、ダクト内のメンテナンスを考えると設計者としては不安が残ります。
というのも、ダクトは各部屋の給気・排気口に固定されているため、そこまで伸びたダクト内の点検が難しく、20年・30年のロングスパンで考えた時、障害が発生したり、結露・カビが発生しても容易に取り替える事ができないからです。
また、ダクトを各部屋に伸ばすために天井にある程度の懐が必要になるので、その分空間スペースを取られてしまいます。
「野方の家」では、メンテナンスの容易性、空間スペースの有効活用を意識し、次のような対策をとる事にしました。
・ダクトは可能な限り短くし、障害時でも点検・交換しやすくする
・短くしたダクトの代わりに、1階天井裏(階間)、基礎を空調チャンバー(空気室。床スリットから溜まった空気を吹き出させる。)として有効活用する
・チャンバーとなる階間と基礎も断熱・気密をしっかり施し、温度ムラによる結露・カビのリスクを低減させる
・問題箇所がわかりやすい配管計画、部分交換が可能な換気・冷暖房システムを構成する
・建主自ら点検、フィルタ交換ができるよう換気システムは小屋裏空間に設置
24時間換気システムは、定期的なフィルタ交換や点検など、メンテナンスを行わなければ効果を発揮しません。(換気扇と同じですね)
容易にメンテナンスができる状況にする事、想定されるリスクを初めから取り除く事で、長く維持できる換気システムにしていきました。
冷暖房計画
「野方の家」では、断熱・気密、空調ルート、間取り、パッシブデザインを生かした設計等により、10畳用のダクトエアコン1台(ダイキン)で家全体を十分に冷暖房できるようになっています。
このエアコンに取り込む空気は、外気清浄機や全熱交換器を通した換気用の空気に加え、エアコン下部から取り込む室内の空気を使っています。
(※エアコンは多くの風量を必要とするので、室内からも取り込みます)
換気システムを通ってきた、室温に近く綺麗な空気をエアコンに送る事で、
・エアコンへの負担が小さく、冷暖房費を抑える事ができる
・エアコンがOFFであっても、エアコンやダクト内には換気用の新鮮な空気が流れる
・冷房時はダクト内やダクトの吹出口付近の木部も冷えるため、結露リスクがある。しかし、換気用の空気が流れるので結露が乾き、カビの発生を抑える事ができる。
ちなみに、エアコンの稼働による1ヶ月の光熱費計算では、
・冬季 暖房期間6ヶ月平均3370円(家全体を20℃に保つ場合)
・夏季 冷房期間3ヶ月平均4330円(家全体を27℃に保つ場合)
最新の省エネ住宅基準の1/4以下の冷暖房費です。
換気・冷暖房の設計は、建主の暮らしの快適性や健康に大きな影響を与えるので、非常に大切です。
部分の性能を見たり、家全体を見たり。
視点を変えながら、最適な設計を進めています。
冨田 享祐