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終活を見据えた家づくり[久我山の家]
土地と建物の遺産相続と、早期退職。
2020年に竣工した「久我山の家」は、人生の大きな出来事を経て「これからどう暮らしたいか」という建主の思いを形にした住まいです。
現在のアクティブな暮らしと、終の住処という異なるシーンのどちらも豊かに過ごせるよう、建主と検討を重ねてから約1年。現在の住まい心地をインタビューさせて頂きました。
住まい心地はいかがですか?
気持ち良いですね。毎日中庭や太陽の明るさを感じながら暮らしています。この敷地には塀がないのでとてもオープン。この庭になってから、ご近所さんから話しかけられるようになりました。周りの人と打ち解けやすくなり、日々の会話も増えて楽しいですよ。
ちょうど良い心地よさを、自分でつくる。
この家は、断熱・気密もしっかりしているし、窓の性能も良いんです。夏は涼しいし、冬は日差しがたっぷり入るので暖かい。
それに加えて自分でも、窓の開け閉め・ブラインドの上げ下げで微調整をしています。室内外の温度・湿度を見ながら、その時の気候や気分にあわせて、体感の丁度良いところに持っていくんです。
例えば、夏の暑い日はブラインドを下げて、熱を遮ぎる。そうするとエアコンがよく効きます。ブラインド越しの木漏れ日も綺麗ですし、窓の下から少しだけ庭が見えるように調整すると、また気持ちがいい。
季節を感じながら、ちょっと頭を使いながら、デザイン・性能・工夫の合わせ技が楽しい。もしこれが面倒だと感じるタイプならマンションの方がいいんでしょうけど、私の暮らし方には、この一手間がとってもあっているなと思います。
なぜ定年後に家づくりをご決断されたのですか?
両親が残してくれた旧家屋は私で3代目を迎えていて、改修を繰り返しながら現在に至っていました。昔の住まいは断熱・気密性は高くないので、暑いし寒い。以前の建物は58坪あったのですが、一人で暮らすには広すぎて管理も大変です。これからの暮らし方に合わせて建て替えようと思ったのです。
建て替えを考え始めた当初は、老後の資金も考慮して「半分賃貸にして、半分自分が住む」という前提で南澤さんに設計をお願いしました。でも、南澤さんと話をしていくうちに、やっぱり敷地全体を使った明るく解放的な場所で、自然を感じながら暮らしたいという思いが強くなって。
来客者にも気持ち良く過ごしてほしいと言う思いもあって、賃貸のために無理に自邸を狭めるのをやめて、精神的にも充実した老後を考えたプランに作り直してもらったんです。
”「よく」死ねる家 ” への思い
実は、設計前にどんな家にしたいか?という南澤さんからのアンケーに、
”「よく」死ねる家”と書いたんです。
いずれ体の自由が効かなくなった時も、施設に入らず、介護ヘルパーさんに来てもらって、死ぬ間際まで家を満喫したい。寝たきりになったら、今音楽室で使っている離れの部屋に介護ベッドを置いて、好きなものに囲まれて、柔らかい日差しや庭を眺め、季節を感じて過ごしたい。そう思っています。
私も二親を看取った経験があるので、将来に備えた介護動線もある程度想像できます。1階は全体的にヘルパーさんも作業しやすい空間にしたかったんです。例えば、庭の一部に駐車場スペースを設けて、中庭から入りやすい動線をつくりました。将来ベッドを置く音楽室には水周り(シャワーとトイレ)も用意しています。キッチンから音楽室へも、少し離れ風にすることで気兼ねなく作業できるように考えました。
今はまだ元気いっぱいなので、自分の寝室は2階にあります。1階はその時が来るまでは、自分のくつろぎと趣味で使い、友人が遊びに来た時は気兼ねなく泊まれるようにしています。
プライベートは2階に。ホテルのような空間づくり。
1階はいつ知人友人が訪ねてきても良いように設えた一方で、2階は完全プライベート空間にしたかったんです。ホテルのように、気兼ねない格好で過ごしたくてベッドルームの他に、トイレと風呂を2階につくりました。
お気に入りの場所はたくさんありますが、この家の魅力の一つは天井かな。朝日が差し込み、夜は間接照明の光が流れる柔らかなアール天井を見ていると本当に気持ちがいいんです。
包まれたような空間で、旧家屋で使っていた家具や両親の絵に囲まれて、ゆったり時間を過ごしています。
天井といえば、1階の音楽室にも工夫があります。
「寝たきりになった時に、天井を眺めて過ごすなら」と南澤さんがデザインをしてくれました。建具も光の差し込みも素敵でしょ?
なぜ当社へご依頼頂いたのですか?
当初はハウスメーカーにも提案してもらったし、他の設計者さんという選択肢もありましたが、これという決め手がなかったんです。
HANさん(当社)の魅力は、デザインだけでなく庭や自然を取り入れながら、高気密・高断熱を実現されていた所です。できる範囲で自然の素材や原理をうまく使って、効率の良い事ができそうだなと思ったことが決め手でした。
それから、南澤さんは「久地の家」で、過去に終の住み処を設計された実績もあったし、こちらの気持ちもわかってくれそうな事も大きかったですね。
南澤さんの設計されたその住宅にお邪魔した時に「壁はどうしてこの素材?」「なぜここにこれがあるの?」など南澤さんに質問すると、ちゃんとどういう意図と経緯で決定したのかも教えてくれましたし、その価値判断が納得のいくものでした。自分にしっくりくるなと思ったんです。
これからは、温熱環境がしっかりしていて、かつ、自然と調和する居心地の良い「終の住処」を望む方も沢山いらっしゃるんじゃないかな。
これからの老後こそは、人の集まる場所になってほしいって言うね。
思い出の詰まった建具や家具を使いながら、旧家の困りごと(マイナス)をうまくプラスに変える。お互い提案しあって、はじめにはなかったものが生まれる家作りは、大変だけど楽しかったです。
私は日本語に関わる仕事をしているので、この家づくりは「啐啄(そったく)」という言葉がぴったりだなと思いました。ヒナが生まれようとする時に、親鳥が殻を割るのを手伝うんです。建て主と建築家との、思いや出会いのタイミングがぴったりとあって、本当に自分の暮らしにあった家づくりができたなと思っています。
「久我山の家」の竣工写真はこちらから。